jasminetea920

読んだ本と観た展示

生きづらさの自己表現/藤澤三佳

https://www.amazon.co.jp/生きづらさの自己表現-アートによってよみがえる「生」-藤澤-三佳/dp/4771025479

 

アウトサイダーアート、アール・ブリュット、障害者アート…といったくくりで語られるものを超え、精神医療とアートが交差する地点を探るため、「生きづらさ」を抱えた人々が「自己表現」を通して自らを癒していく過程を追う、という内容。

最終的なアウトプットとしての作品だけではなく、「自己表現」の過程そのものの価値にスポットを当て、「プロセスとしてのアート」という考え方を提唱している。

 

勉強になったところとしては、椹木野衣アウトサイダーアート入門」などで得た知識に、「アウトサイダーアート前史」と言える医療領域での流れ(芸術療法)を付け加えることができたこと。

疑問点がいくつか。この本は、美術的価値観と医療的価値観の間にある程度の対立構造があることを示した後に、どちらに偏るでもないあり方を探る…という内容と記憶している。本書で示されている美術的価値観とは、絵画作品等がマーケットで高値がつくことが良い、という考えが想定されているように読んだ。それに対して、ケアとしての効果を価値とする医療的価値観があり、二者の間にあるものが「プロセスとしてのアート」である、という流れだ。私が引っかかったのは、この「プロセスとしてのアート」というのは、現代美術でいうところの「関係性の美学」に近いものなのか、それとはまた全然違うのか? ということ。 社会彫刻・SEAなど、物質ではない形態をとり、マーケットで売りにくい美術作品の系譜はあるため、美術的価値観vs医療的価値観の構造から「プロセスとしてのアート」というだけでは少し腑に落ちなかった。

また、病院の中の造形教室と、プロを目指す人が多数であろう映画学校は並列できるのか、「ドキュメンタリーに出演する」のは確かに「自己表現」であるが、監督・編集が別の人であった場合はその人の作品ではないので同等には扱えないのでは、といった点が気になった。と言いつつ、セルフドキュメンタリーという題材には非常に興味を惹かれ、本書では扱われていないが、セルフポートレートだとどうだろう、などと思った。

 

筆者は京都造形の教授で、授業での学生コメントも引用されている。学内で展覧会も行ったようで、授業でこのようなテーマに触れられるのは単純に羨ましいと感じた。